東京は武蔵野市三谷通りにある豆腐屋さんのことは書籍版の『サービスはこころでする...』でも書かせてもらった。ここのご主人、70代の白髪交じりの職人刈りで、お客さんに商売ものを手渡すときいつもちょっと会話する。前に「実は今、花粉症の特効薬を開発中。お客さんに頼んで実験中なんだけど、できたら大変なことなので完成まで内緒にしておいてね」と、周囲3メートルは届く声で言っていた。
朝が早いおじさんは豆腐作りの湯気の向こうから、店の前を通る小学生に「おはよう」を言うから子どもたちは帰りにテストの点を報告による。「なによりやっぱり豆腐がおいしい。スーパーに行けばさっと買えるだけど、やっぱりね」と近所の主婦。なんせ店の地下にある武蔵野の深井戸から汲む水でつくるから滋味と香りが特別なのだ。
その店がもう、2か月ほどシャッターが開かない。数年前に揃って店に立っていたおかみさんがなくなり、最近は「豆腐つくたって誰も喜ばない...」ってときどき言っていた。
そんなことはない。まだ春の頃、しばらくぶりでお店が開いた日、常連さんが次々押しかけて、「ああ、おじさん、よかった。」と大繁盛だったじゃないの。まちから、こんなおいしいものと、魚が藻に集まるように豆腐を通してなんとなくヒトが寄る場が消えていいわけがないと思うのだが。人が個人で支えきれなければ、まちでワヤワヤとみんなで…。
武蔵野市のもっとも独自性ある経営資源、つまりまちの宝のひとつは良質な地下水。おいしい豆腐ができる水は、食だけでなく、教育、農業、福祉、産業などさまざまの暮らしの課題を解決する源でもある。みんなが自分のことに引きつけてそれぞれに活かすことのできる大事なお宝。それを忘れないでいたい。小さな問題から解決できないものか。
[2014.08.15]