グレートジャーニーの探検家で医師、武蔵野美術大学教授の関野さんとは昔、大学時代のゼミ仲間。氏主催の「地球永住計画連続講座」にでかける。
ゲストは平田オリザさん。きらりと際立つ哲学がちりばめられて、思わずメモをとる。「芸術も探検もやる価値があるかどうかだがやってみないとわからない。だから途中は無理解にさらされる。。。。価値のある探検、アートにはセンスがある。それが感動を生む」。障害者アートに触れて「障害者は色を統合する力が欠如。だからわたしたちが知として統合する前の世界がみえる。だから感動する」。話の終わりの方で「地域の自立は文化の自己決定能力で決まる。誰かが“価値がある”を見つけねばならない」。
関野さんは今、地球の永続に向けて生物多様性の大切さにまなざしを向けているらしい。「地球永住計画を考えようとするとき、宇宙のしくみを知らねばならないと思った」…。「玉川上水にそって自然が生きていてどっこいタヌキなどが棲んでおり、虫、バクテリアなどの通常は嫌われ者が居てはじめて自然循環が進んでいる」話。最後に馬糞を数匹の糞虫が自分たちにとってはビルくらいの大きさの馬糞を一分で粉々にする映像を見せた。
ふたりの言葉を借りれば「かみ合わないまま、終わった」講演会。関野さんが平田さんに「この星の新しい形」はと問いうたのに対し、「自然観は特にないです」と応えが返っていた。けれども、人間も含め、すべての生物と、その創りだすものを受容して、感じて、それぞれの人が自分に照らしてそれをどう咀嚼するのかを問うた講座自体がアートであったし、自然観だったのかな、と理解力が遅い筆者は今頃思う。
後期には関野さんに「街づくり未来塾」の外部講師にお願いたら二つ返事で引き受けてくださった。そして届いたタイトルが「グレートジャーニーから地球永住計画へ -世界の旅から地域の旅へ-」。いったいどういう話なのか、とば口だけでも知りたいとでかけた講座。「行ってよかった」と思える講演会ってあまりないけれど、これはすごくおもしろかった。集中豪雨の去った夜のこと。
[2016.08.21]
港町で明治から営んでいる靴屋さんがある。春先に買った靴、いつも擦れたりしないのに今回ばかりは靴擦れに悩んだ。「なにかあれば遠慮なく持ってきてください」の言葉を頼りに、履きかけで持ち込んだ夏。
3代目だという50代くらいの社長さんより年上の、そう、「高齢者」と言っていい店員さんがほとんどで、多分、先代から働いてきた人たちだろうか。そんなおひとりが「お足が前に滑って、だから痛いのでしょう。かかとが少し深いので、後ろがあたるのもあるので、ここに敷き革を入れて少し上げましょう。前は左と右で御足の形が違いますからラバソールの敷き革をそれぞれ違う形に切って、つま先の手前で足を止めてみます。3.4分お待ちください」。
お店の裏で作業して持ってきてくれた靴はこの人の手のひらの上に大事そうにおかれ、もう一方の手で支えられていた。「履きかけなのに」。声に出そうだった。
お店の靴を愛し、私の靴を大事に扱ってもらったのがわかる。きっと思わず、手のうえに載せてくれたんだね。何十年もそうしてきたのかもしれない。長年の勘で微調整された靴は、今度は足をうまく受け止めてくれた。またMIHAMAに来よう。
[2016.08.12]